後編 『Makelove-繋がる想い-』

 あの夜以降。
 幹人は姉と口を全く利けなくなった。というより、顔を合わせることがなくなった。姉は自分を避けるように朝早く出かけていき、夜遅く帰ってくるのだ。
 今まで迎えに行ったりしたことの無い幹人が突然姉を待って夜遅くまで起きていたらそれこそ両親に怪しいと思われるので、それだけは避けていた。
 そんな日々が、既に10日ほど過ぎている。
(このまま…一生話せなかったりするのかな……)
 それは嫌だ、と幹人は思う。
 既に相手を姉としてではなく、女として意識してしまったのだ。
 愛する女として。
 そして姉も自分を男として見続けていたことを告白してくれた。
 けれども。
 姉は一緒になれない、ということを感じ取って理性でしっかりと判断したのだ。
 自分もそうしなくてはならない。
 そう思いながら、数学のテキストを埋めていく。不思議と姉に教わったあの日から授業の理解度は右肩上がりになっている。
(姉さんに…また教わりたいな……)
 純粋にそう思った。
 あの日のことは白紙にして、ただの姉弟としてやり直していきたいと、願った。
 姉に教われば、不思議と大学なんて合格できそうな気がした。不合格なんて、微塵も考えられない。
(…と、もうこんな時間か……)
 勉強に没頭しているときの時間とはとかく早いもので、時計の針は一時を過ぎた頃を指していた。
「そろそろ寝ないと……な」
 姉はもう眠っているだろうか。
 確か明日は大学に行くみたいなことを母に言っていた気がした。
 片道二時間かけて通学するのだ、もう寝ていて当然だろう。
 かくいう幹人も、明日は数学の講習が待っていた。
 しかも鬼のように3時間も続けて行うのだ。それを考えるとくらくらしたが、しかし避けて通れぬ道であることは理解できていた。
(明日は姉さんと話せるかな……)
 そうしたらこの前のことをしっかりと謝ろう。そして、あの日のことは無かったことにして、今まで通り姉弟の関係を続けようと言おう。
「コンコン」
 控えめに小さいノックが聞こえた。
「幹人……起きている?」
 小さい声で姉が話しかけてくる。
「あ……ああ…」
「幹人……あの…この前はごめんね……。私、幹人を困らせただけだったよね……」
 部屋にはいらず、ドア越しで姉は一方的に話しかけてくる。
「そんな…姉さん、俺のほうこそ……」
「私ね、もう幹人に迷惑をかけないようにするから……」
(え…? どういうことだ?)
「私……大学の近くに下宿することにしたの。今日は…その下見に行ってきたんだ……」
「おい…。何勝手なこと言ってんだよ……」
「お父さんもお母さんもいいって言ってくれたし、いつまでも姉弟で一緒にいるのもおかしいよね…。夏休み明けたら、私は下宿先に引っ越すから……」
「だから、そうじゃなくて!」
 幹人は思わずドアを開け放っていた。ドアに寄りかかっていたのか、姉は後ろに倒れてくる。
「あ、ちょ…!」
 思わず幹人は姉を支えた。
「危ないよ、いきなり開けたら……」
「ごめん…けど! 俺……」
「うん……。幹人の気持ちは嬉しいよ……。でもね、このままじゃ絶対不幸になるよ、私達…」
「どうしてさ。好きな人同士が一緒にいて、どうして不幸になるんだよ」
「姉弟じゃ結婚できないのよ! 分かる? 私たちは一緒になれないの!」
「…結婚なんて…そんな紙の上だけだろう…?」
「え…?」
「法律上夫婦であるかないかなんて、役所にある紙の上に書いてあることだけだよ。実際に籍なんて入れなくたって、立派に夫婦はやっていけるさ……」
 姉はまるで予想外というような表情を浮かべて呆けている。
「そっか……。どうして私…考えられなかったんだろう…」
 なにやら勝手に納得しだした。
 幹人にしてみればその場の思い付きだった。理知的な姉にはわがままにしか映らない、そんな発言だったのだ。
 だが、よく考えてみるとこういうことか。
 理知的な姉は合法なのか、非合法なのか。あるいは出産した後の子供の問題など生物学的に物事を考えてしまい、近親相姦における禁忌がそこにあると考えていたのだ。
 ゆえに、結婚も出来ないと。
 だが、一緒にいるだけでいいという幹人の発想は浮かばなかったのだろう。
「で…でもさ。私…、一緒になったとしたら幹人の全部が欲しいよ……?」
 つまりは身体も、ということだろうか。
「多分…。子供も欲しくなるし、そうしたら…幹人と……」
「俺は構わないよ…。構うものか……。俺は姉さんが好きだ……」
「…赤ちゃんが身体が弱くても、一緒に面倒を見てくれる?」
「勿論」
「それと…私がおばあちゃんになっても、キスしてくれる?」
「当たり前だろ」
「……よかった。私のあこがれた幹人だ」
 にっこりと姉が微笑んだ。
「ねえ、幹人……。あの日の約束、もう一度言って……」
「え…? あれを……?」
 幹人は動揺する。あんな、幼い日の言葉をもう一度と姉がせがむとは思わなかったのだ。
「聞きたいな、私……」
「……分かったよ…」
 言うのは恥ずかしいが、言えば姉が自分のものになるような気がして、幹人は言葉をつむいでいった。
「僕は……大きくなったらお姉ちゃんをお嫁さんにする」
「……幹人……」
 顔を赤くして、姉が満足そうに微笑む。
「…ねえ、あの時私、なんて答えたか覚えている?」
「…いや、ごめん……」
「あ! すごく失礼! 私も一生懸命答えたのに!」
 姉が頬を膨らませて抗議する。しかし、いくら怒ったとしても頬を膨らませているのでは子供と一緒だ。
(それじゃ可愛いだけだよ、姉さん……)
 幹人は苦笑いしながら謝る。
「ごめん…」
「…じゃあ今度は忘れないでよ………」
 姉はすうっと一度深呼吸をして、ゆっくりと吐き出してから答えた。
「私を…幹人のお嫁さんにして……」
「…姉さん……」
 その言葉にたまらなくなって、幹人は姉の唇に自分の唇を重ねていった…。
「…幹人……。お願い…、抱いて……」
「…いいの?」
「私…幹人に私の初めて…もらって欲しい……」
「そっか……」
 苦笑して、幹人はゆっくりと優しく姉をベッドに押し倒した。
 ふわりと舞う黒髪が月光に濡れた室内ではやけに綺麗で。
 優しくもう一度口付けをした…。

「ん…ん、ぷはぁ! 幹人…、キス上手…」
「ん…サンキュ」
 礼を言って、胸へと手を伸ばしていく。
「や…だ、駄目! もっとキスしてから!」
「あ…ごめん……」
 伸ばしかけた腕を情けなく引き込めながら、幹人はもう一度口づけする。
「ん…ちゅ……はぁ…ん……は…ちゅ……」
(姉さんの唇…柔らかい……)
 この前キスしたときにも感じた、柔らかさ。姉への想いを募らせれば募らせるほど、どんどんキスに快楽が伴っていく。
 優しく、少しだけ赤みがかったふっくらとした唇に、何度も何度も自分の唇を重ねていく。
(でも……唇だけじゃ足りないよな…)
 どうしたものか。
(あ、そっか…。舌……)
 舌を絡ませる方法があったか。
 以前友人が面白がって話していたことがある。勿論、幹人に恋人がいないことを知った上でだ。
 軽く馬鹿にされた印象がそのときはあり、幹人も悔しかったが今はそんな知識が存在することをありがたく思った。
「ん……あ!?」
 突然口の中に下を潜り込まされて、姉は驚いたような声を上げた。
 しかし幹人は容赦なく舌で姉の口の中を蹂躙する。
 姉が嫌がるあまり噛み切ってくれた日には死ぬな、と思いつつも幹人にはやめられなかった。
 姉とのキスが、あまりに気持ちよかったからだ。
「ん……あ…ちゅ……んん…」
 最初は驚いた顔をしていたが、姉も次第に幹人の舌に自分の舌を絡ませていった。
(姉さん……)
 それはたまらない快感を幹人にもたらした。
 それだけではなく、精神的にも非常に満たされた感じがする。
 手に入らないと思っていた。
 手が届かないと諦めていた、夢のような存在。
 それが姉だった。
 今、その彼女が自分の舌で激しく舌を絡めてきている。
(ああ…俺、愛されている……)
 舌を絡めていくうちに、ぼうっと意識が霞むのだけれども、おぼろげながらにそんなことを感じていた。
 そして、同じことを姉にも感じて欲しいと願い、唾液が混ざるように舌を絡めあった。
「あ……あう…んちゅ……ぷはぁ!」
「あ……はぁ…」
 姉の顔を見やると、とろんとした瞳がたまらなく可愛かった。
 電気の消された室内で、月明かりのみに照らされた姉がまるで女神のように神々しい。
(綺麗だ……)
 素直に幹人は感じた。
「姉さん…綺麗だよ……」
「…ありがと……、幹人……」
 顔を赤く染めて、照れた様子を見せながらも姉は素直に喜んでいるようだった。
 それが何よりも嬉しい。
 姉の喜ぶ笑顔を見ると、幹人も心が温まっていくように思えた。
「姉さん…」
 軽くキスをしながら胸に手を這わせていった。
 ビクっと一瞬姉の身体が震え、幹人は心配したが少し緊張しているだけだろうと思い、それでも一応気を遣いながら胸を少し強く掴んでみる。
「あ…幹人……」
「姉さん……」
「幹人…。私の胸……小さくない? 平気?」
「別に小さくないし、平気だよ。どうしたのさ」
「だ…だって……男の人って…大きいほうがいいでしょう……」
「うーん……、人それぞれでしょう。俺は別に姉さんなら大きかろうと小さかろうと気にしない……」
 それは素直に思っていたことであった。
 というより、他の女性の胸を触ったことがないので大きいのか小さいのか幹人には判断できなかったのだが、それでもその大きさは幹人にとって十分な大きさだった。
「よかった……。小さいって言われたらどうしようかと思った……」
 姉は本当に嬉しそうに目を細めている。
「いや…別に小さくてもいいけど……」
「でも大きければそれに越したことないよね…?」
「あ…まぁそりゃー……」
 確かに大きければそれだけやれることも増えるかもしれない、と幹人は思った。
「…けどさ、俺。姉さんだったらほんと、何でもいいから……」
「あ……幹人…」
 丁寧に一つずつ姉のボタンを外していく。
 正直、初めてのことなので幹人は手が震えていた。
(ぐ…くそ、情けない……)
 初めてのときは緊張するという話も聞いていたが、まさかこんなにも緊張するとは。
 予想以上に、自分は小心者ということか。
「幹人…、震えている…」
 姉がそっと手を重ねる。
 それにさえドキドキと心臓が高鳴っていき、幹人はきっと今赤面しているんだろうな、とか考えながら姉の言葉に耳を傾ける。
「平気だよ…、私はここにいる……」
「姉さん…」
「幹人が恥ずかしがっていたら、私も恥ずかしいよ…。だから、ね。私も…逃げないから…」
 嬉しいことを言ってくれる。
「ずっと…私は逃げていたから…。けど、もう逃げない。今晩…幹人に抱かれるの……」
「姉さん……」
 そう言われると逆にプレッシャーになるんですけど。
 これで上手く処女を卒業させてあげられなかったなんてことになったら、姉を一生苦しめることになる。
(大丈夫かな…俺…)
 とはいえ、抱くということにもう変わりはないのだ。ならば一生懸命やれるだけのことをやるしかない。
「姉さん…」
 軽く口づける。
 そうすることで、心が落ち着く気がした。
「ん…」
「愛している…姉さん……」
「私も……」
 気持ちを確かめ合って、幹人の震えはどうにかこうにか収まる。
 なんとなく、安心できたのが大きかった。
 震えのとまった手でボタンを外していき、ついに全てを外すと左右にさっとはだけさせた。
「あ…恥ずかしい……」
 姉が両手で顔を隠してしまう。
 けれど、幹人にそんなことへ気を配っているゆとりはなかった。
(これが…女の胸………)
 今まで服の上からしか触れたことのない乳房。
 それが今、目の前に広がっている。
 控えめに頂点に存在する乳首がとても可愛くて、食べてしまいたいくらい綺麗に目に映っている。
「姉さん…触るよ………」
「う…うん……」
 手を、姉の胸に導いた。
(うわ! 柔らかい! おっぱいって、こんなに柔らかいんだ!)
 幹人はその柔らかさに感嘆のため息を漏らした。
 力をこめれば、それを優しく受け止めてくる。ほんのりとしっとりとした感触がたまらない。
 まるで脳髄に電撃が走ったかのように感じる。
 興奮して、力をこめすぎないように注意しながら姉の両胸を揉みこんでいく。
「あ……は、んぅ…幹人……」
 すると姉の甘い声が響いた。
(姉さん、感じているんだ……)
 時折混ざる甘い吐息に幹人はしびれきっていた。
 自分の手が姉に快楽をもたらしている。
 えもいわれぬ興奮。
 それが、理性を打ち砕いてより強く力をこめてしまう。
「あ…痛!」
「あ……ご、ごめん」
 力をこめすぎたことを反省して、幹人は再び優しく手を動かしていった。
「ん……んぅ…幹人…、私…恥ずかしいよ……」
「大丈夫、姉さん綺麗だよ……」
 姉の耳元でそっと囁く。
 途端に姉の顔が真っ赤に染まった。
「やぁん、だから恥ずかしいの…!」
「あはは。ごめんごめん」
 微苦笑して、幹人はそろそろ揉むだけというのにも飽きてきた。
(乳首…吸ってみるか……)
 姉の乳首は豊満な乳房に反比例するかのように、本当に小粒な果実だった。
 乳輪もさほど大きいわけでもない、完全に幹人好みの美乳だった。
 改めて見ると、そんなことに気づけて感動したりする。
 しかしこのままじっくりと鑑賞会、というわけにもいかず姉の乳首へと吸い付いていった。
「あ…! 幹人! それ……いい!」
 唇だけで乳首を甘噛みし、少しだけ吸い上げる。
 それを右の乳首、左の乳首と交互に繰り返していく。
「あ……あああ! 気持ちいい! 気持ちいいよ! 乳首、気持ちいいの、私ぃ! ああ! 幹人、いい!」
 今までマグロ状態だった姉が、途端に激しく感じ入る。
 あまりに強い快楽が与えられているのか、姉は身を捩じらせて「気持ちいい!」と何度も叫んだ。
 その度に、幹人は乳首を吸うのに強弱をつけて姉を楽しませた。
「あ…すごい! すごくいいの! やはぁぅん! あん、あん、あん! はぁ……ん、うぅん! 幹人…乳首……すごくいい!」
 姉が歓喜の言葉と、賛美の言葉を発した。
 それがこの上なく、幹人には嬉しい。
 幼い頃から、自分よりも絶対的に優位だった姉。
 そんな姉に憧れ、女として尊敬するようになり、そしていつの間にか愛するようになっていた。
 手にはいらないはずの、高嶺の花だった。
 しかし、姉も自分の事を愛してくれているという。今、その姉に快楽を与えているのは自分だ。
(俺が…姉さんを気持ちよくしている……)
 この上ない、至福の瞬間。
 愛する人と結ばれて、肌を重ねるとはここまで気持ちのよいことだったのか。
(最高だよ、姉さん…!)
 下には白い姉の素肌が、優しくゆれている。時に響く甘い声は自分の愛撫に反応する、まるで楽器のように綺麗な旋律を奏でていた。
「幹…人」
 はぁはぁと熱いと息を漏らしながら、姉は頬を上気させてとろんとした瞳で見つめてきた。
 不思議と、幹人も表情が緩む。
「愛しているよ、姉さん……」
「ん…んん……」
 軽いキスをかわしながら、徐々に残ったパジャマを脱がしていく。
 姉は頬を更に赤く染めて、恥ずかしそうな表情で幹人の胸に顔をうずめた。
「すごい……綺麗だ……」
「やぁぁぁん、そんなとこ見ないで…」
 下着まで完全に脱がせて姉を全裸にすると、幹人も服を脱いで顔を姉の股間に近づけた。
 きらきらと愛液に濡れて輝く、産まれて始めてみる女のそこは思っていた以上に綺麗だった。
 鮮やかなピンク色に染まった処女地。
 そこにこれから自分は肉棒を押し込むのだ。
「…姉さん、入れるよ……。いい?」
「う…うん…。痛くしないでね……」
「…出来る限り頑張る……」
 童貞の幹人に、果たしてどれだけの自制が効くかは判断できなかったが、姉が恥ずかしがり痛がるようなことはしたくなかった。
 今もすぐに猛り狂うかのようにそそり立つペニスを姉に挿入したいのに、しないのは姉への想いが強いからだ。
 既に先走りの汁に濡れたペニスを、姉の処女地に挿入するのだ。
(姉さん……。姉さんの初めて、俺がもらうよ……)
 ズブリ。
「く……あ、あぁ……」
(うわ! なんだこれ…!)
 亀頭の先端が触れただけだというのに、そこにはたまらない快楽があった。
 姉が苦悶の声を上げたが、その快楽は幹人から自制心を奪っていった。
(触れただけでこんなに気持ちいいなら……、最後まで挿入したらどうなっちゃうんだ!?)
 ズブリ!
 今度は少し勢いよく腰を押し込む。
「あ…! ぐ……」
(あ…ああ、気持ちいい………)
 ぬるりとした感触に、熱いくらいに熱せられた姉の性器。
 だが、痛いくらいに肉棒を締め付けてくる。
 むしろ常に挿入しようと力を入れなければ、押し返されそうになる。
(もっと…根元まで入れたい……!)
 願い、腰を前へと突き出していく。
「ぐ……! あ…! あぐ……! い……!」
 ギチリと硬いものを押し広げるように、幹人は己の分身を姉の内部に埋没させていった。
 押し寄せる快楽にすぐに射精してしまいそうだが、もっと気持ちよくなりたいという想いが働いて射精しないように頑張った。
(これ…処女膜…か!?)
 やがて、何かに引っかかる感じを受けて一度腰を止める。
 これから、自分が姉を女にするのだ。
 そう思うと、興奮がやまない。
「姉さん……愛している……」
「……う、うん……私も…」
「……じゃ、いくよ…」
「お願い…きて……」
 一思いに、一気に腰を叩きつける。
「あああああああ!!! ぐぅぅ!!」
(入った…! 根元まで入った……!)
 姉が破瓜による苦悶の声をあげるが、幹人の耳には届かなかった。
 根元まで挿入したことによるこの上ない満足感。
 熱いくらいに体温を直に感じ、そしてへし折られるかと錯覚するほどペニスを締め付けてくる。
 痛いくらいだった。
 しかし、姉はそれ以上の痛みをきっと味わっているのだ。
(でも…我慢できない……)
 挿入直前までは姉が痛みに慣れるまでは動くまいと思っていたのだが、どうもそうはいかないようだ。
 快感をより強くと求めるように、腰が自然と動き出した。
「あ…! 幹人……痛い! 痛いよ!」
 涙を流しながら姉が抗議する。
「ごめん…姉さん! 俺、すごく気持ちよくて我慢できない!!」
「駄目よ! あぐ! 少し……お願い! 少しだけ待って!」
 その言葉に、幹人の意識は途端に冷静になっていく。
(俺は…何を……)
 抽送を停めた。
 姉は大粒の涙をこぼしながら、悲しげな表情で幹人を見ている。
「姉さん…ごめん……」
 初めて挿入した膣の感触に負けて、射精寸前まで追い込まれていたのだけれども、姉の悲しげな表情を見ると途端に射精感が減衰していくのが分かった。
 本当は二人で快楽を分かち合いたいのだ。
 実際に姉は処女だったのだから、いきなり挿入までは無謀だったかもしれない。
 もっと、愛撫を行ってから挿入すべきだったかと幹人は後悔したが、後の祭りだった。
「幹人……ごめん…。初めてで……」
「いや、姉さんが悪いんじゃない。俺が…無神経だった……」
 処女を抱くということは前もって認識していたのだから、もっと他にやり方があったはずだ。
 いくら自分は童貞だったとはいえ、こういったときくらいリードしていかないといけないはずだ。
 多分、女の姉のほうが恥ずかしかったのだろうから。
 そして痛みも恐怖も味わうのだろうから。
 だから。
 優しくしないといけなかったのだ。
「幹人……ね、キスして……」
 せがむ姉に、申し訳なく思いながら唇を重ねていく。
 そのときに微妙に肉棒が膣壁を擦ったのか、苦しそうな表情を一瞬浮かべたが幹人はキスをした。
 謝罪と、愛をこめて。
「幹人……愛しているよ…」
「姉さん……」
 口付けながら、うっとりとした表情で姉がつぶやく。
「……動いていいよ…」
「え? でも……」
「いつまでも止まっていたって幹人は気持ちよくないでしょ? 幹人には気持ちよくなって欲しいの。最高の初体験であって欲しいの…」
「あ…」
 こんなときでも、姉は自分の事を案じてくれている。
 だが、それは…。
(それは……俺も一緒だよ……)
 幹人にとっても、姉の初体験を最高のものにしてあげたい気持ちがあったのだ。
 結果として童貞ゆえの焦りが早期の挿入を行うことになり、苦痛の伴った性交となってしまったのだが。
「ほら…動いて……」
 姉は正常位という女性にとってはこのうえなく動きにくい状況で腰を動かそうとしていた。
 だが、痛みも伴うのだろう。
 少し動いては苦悶の表情を浮かべて熱い吐息を漏らした。
「姉さん…無理しないで…。俺が動くから……」
「幹人……」
 これ以上姉を苦しめたくはない。出来るだけ早く終わりにしよう。
 そう思い腰を動かしていく。
「あ……ぐぅぅ!」
 その度に姉は痛みを訴える声を上げる。
 幹人の背にいつの間にやら回された腕は、爪を立ててそんな幹人を制止しようとしている。
(けど…俺は姉さんを……)
 抱くと決めたのだ。
 姉も自分に抱かれると決めていた。
 だからこそ、ここで終わりにはしない。
「あ…! 姉さん! 駄目だ……! イク!」
 こみ上げてくる射精感。
 熱く強く締め付ける膣の感触に耐えることが出来ず、幹人は射精をしようと腰を強く打ち付けていく。
「や! ああ! 幹人! 幹人ぉ!」
「姉さん!!」
 ドクドクドク。
 激しい白濁の奔流が、姉の胎内に放たれていく。
「あ……ああ……」
 ペニスの律動と精液の感触を感じているのか、姉は目を見開いて脱力しているようだった。
(姉さん……)
 初めて行う性交による射精の快感に酔いながら、幹人は急速に意識を失っていった。

「…ねぇ、お姉ちゃん」
「なに? 幹人」
「僕ね、大きくなったらお姉ちゃんをお嫁さんにするね」
「え…?」
「絶対だよ。僕、お姉ちゃんをお嫁さんにするから」
「幹人……」
 顔を赤らめて姉が呟く。
(ああ…夢を見ているんだな、俺…)
 なんてことを考えながら、幹人は目の前にいる幼い自分の姿を見て微苦笑した。
(あの頃は…本気で結婚できると思っていたもんな。姉さんと……)
 あの幼かった頃。
 全てのものが美しく見え、そしてそこが楽園だと感じていた頃。
 幹人は一度だけ、姉にプロポーズをしていたことがあった。
 無論、それは忘れていない。
 けれど、その言葉の意味は全然分かっていなかったと改めて幹人は感じていた。
(でも…あの頃から姉さんが好きだった……)
 何でもこなし、美しい姉がこの世界で誰よりも好きだった。
「幹人……」
 その甘く優しい声で、自分の事を呼んでくれることが嬉しかった。
 弟でなければ、声をかけることさえ億劫になるくらい姉は色々なものを持っていた。
 自分にないものは全て姉が持っていたのだ。
 それを羨ましいと思ったことはあったけど、絶対に手の届かない存在として幹人の心のなかに存在していたのだ。
 そんな現実を自分は塗り替えた…。

「幹人…」
「姉さん……」
 目を開けると、姉が微笑みながら自分の髪の毛を手で梳いていた。
 月明かりに照らされた白い肌が、とても綺麗だと感じながら幹人は姉の手を取る。
「気が付いた?」
「俺…寝ていたの…?」
「うん…十分くらい……」
「そっか…」
 一度目を閉じる。
「夢を…見ていた」
「夢…?」
「小さい頃…。まだ何もかもが綺麗に見えた、そんな頃…。俺が…その…姉さんにプロポーズした……」
「…覚えていたんだ……」
 目を開き、幹人は続けた。
「いや…、忘れていたよ。今、夢を見て思い出したんだ…。俺は小さい頃から姉さんに憧れていたことを……」
「幹人……」
「その頃から…俺は姉さんと比較され続けていた。周囲の人間の期待に応えるために、努力もした。…けれど、それでも届かなくて……。馬鹿にされてここまできた……」
 中学の頃。高校に進学を考えたとき、担任がこう言った。
『お前のお姉さんが全能なら、お前は無能だな。進学するくらいなら働け。親御さんも、金を使わないで済む』
 何だか無性に悲しくなって。
 死んでしまおうかと、首をくくってしまおうかと、手首を切りつけてしまおうかと何度も悩んだ。
 けれど。
 だからこそ、今を変えて土下座させてやろうと幹人は考えた。
 そして、姉と同じく県下最高の進学私立高校に入学した。
 まるで、他愛のない話をするように、幹人はそのことを告白した。
「…幹人は無能じゃないよ……」
 姉は同情とか、そういう表情ではなく単純に尊敬のまなざしで幹人を見つめ返して答えた。
「幹人には現実を変えていける強さがある……。私が全能なのも嘘。失恋一つで私は死さえ考えた弱い人間……。幹人から告白されなかったら、あの晩私はカミソリで手首を切ろうと思っていた……」
「う…うそ?」
「…ほんと。私に現実を変えていくだけの力はないの…。だから…何度も困難に立ち向かって、現実を変えていく幹人をずっと尊敬していた…。だから、幹人は無能じゃない。ずっと側で見ていた私が一番よく知っているよ……」
 ゆっくりと、優しく微笑んだ。
 その笑顔はまるで女神のように美しくて。
 何だか幹人は照れくさかった。
「それより…幹人。避妊するの忘れたでしょ?」
「え…? あ!」
 言われて初めて気が付いた。
 行為が始まると無我夢中で、挿入直前に着けようと思っていたコンドームを使うことなどすっかり忘れていた。
 サッと血が引いていくことが分かった。
「…多分、大丈夫よ。今日、安全日だし」
「そ…そう……」
 ホッと、胸をなでおろす。
「一応、薬局で今度検査道具買ってくるけど…一緒に避妊具も買わないとね……」
 姉の目が、一瞬光った気がしたのは気のせいだろうか。
「幹人も付き合ってよね」
「ええ!? 俺も!?」
「当然。恋人なんだから、そういうとこしっかりしないと。特に避妊は男の子のマナーだよ」
「そりゃそうだけど……」
 なんとなく、二人でコンドームを買っているようではこれからセックスしますといっているようなものではないか。
 …いや、多分するのだろうけど。
「幹人……」
「なに…?」
 ベッドに腰掛けなおした幹人に寄りかかりながら、姉が続ける。
「私たち…。法律では結婚できないけど、ずっと一緒にいようね…」
「…勿論だよ」
「あ…それで。是非幹人には私の大学に受かってもらわないと」
「は?」
「下宿は延期。幹人が合格したら二人で生活するの。いいでしょ? 新婚さんみたい」
 勝手に話を進めていく姉。
 だが。それを尻目に幹人は焦りを感じる。
「いや…でも俺の今の実力じゃ……」
「大丈夫。今まで何度も現実を変えてきた幹人になら出来る! 私も教えるし絶対合格間違いなし!」
 一人張り切る姉が、何だか無性に可愛いと思った。
「…姉さん……。俺…頑張るよ……」
「ええ。一緒に頑張りましょう」
 優しい姉の微笑みは、きっと明日から悪魔のごとくきつい先生になるに違いない。
 けれど、それでもいいかと幹人は思う。
 愛する人と一緒にいられることなど、この上ない幸せなのだと思うから…。



あとがき
 お姉さんが幹人くんにメロメロな話になりました。
 しかしいくら弟にメロメロとは言っても、処女を弟に捧げたいと願う女性が果たして実際にはどのくらいいるのでしょうか?
 童貞を欲しがる人のほうがまだいそうな気がしますが…。

 それはさておき。
 お姉さんはお姉さんなりに周囲の期待に沿った優等生であろうと頑張るあまりに一人気負いすぎていました。
 それを救ってくれたのが幹人。
 普段どうってことない男ですが、現実の流れをここぞというときに自分に引き付けられる持って生まれた才能があったりします。
 何も持っていないなんて思っている人も、きっと幹人と同様それに気づけていないだけです。

 それに気づいた人間がきっと他人には強い者として映るんでしょうね。
(2005/04/18)
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