冬の冷え込んだ空気の朝。
ホームの上で白く吐き出される息を退屈そうに男が眺めていた。
朝の通勤ラッシュの時刻。都心に割と近いというなかなか好条件な場所はとかく人でごったがえしている。
反対側の下りホームをちらりと見れば、こちら側よりも空いていることは明確で、男は微かに舌打ちした。
生憎男は周囲の人間と変わらず上りで出社する身だ。
社会人になってから早くも5年という月日が過ぎ去ろうとしているが、毎朝毎夕のように飽和状態のように詰め込まれる電車に今だ慣れることは出来ていなかった。
終点の新宿まで、この桜坂駅から急行でも40分。その間、座りたいという贅沢は言わないが、せめて雑誌を読めるスペースくらい欲しい。
(それさえ贅沢か……)
男は俯く。
桜宿線。別名、魔のラッシュ線。
昼ごろに乗ると乗車率が50%にも満たないとかいう噂を聞いたことがあったが、朝夕の情景しか見たことのない男には、にわかに信じがたい話であった。
『1番線、お下がりください! 電車が参ります。危ないですから黄色い線の内側に………』
耳慣れたアナウンスに電車がホームへと滑り込んでくる音。
目の前を過ぎ去る先頭車両をちらりと盗み見ると既に車内は飽和状態のようだ。
(うわ……)
とは言え、この電車に乗らないわけには行かない。
今日は大切な会議があるのだ。
遅刻するわけにはいかない。
開け放たれたドアに、男は滑り込むようにして奥へ奥へと進んでいった。
(ど…どうにか入れたか……)
男は少しだけため息を吐いて、暖房の効いた車内に感謝する。
…少しだけ。
乗車率が200%を超えていると思われる現在、車内はサウナ状態なのだ。
最悪の状態だ。
そんなことを考えながら、男は反対側の扉のほうまでどうにか進んでいった。そちら側は終点まで開くことなく、上手くスペースを確保できれば雑誌を読むスペースくらいは確保できるのだ。
生憎、今回はそれをするだけのスペースはなかったのだが。
しかし、男はその代わりに面白いものを見つけることが出来た。
(お…女の子?)
顔立ちの整った、美麗という単語が相応しい少女だった。
ある有名私立お嬢様学校の制服に身を包み、退屈そうにドアに取り付けられた窓の外を眺めている。
体型を考えると、小学生くらいだろうか。
(か…可愛い………)
男には以前からロリコンの趣味があり、このくらいの女の子を見てひそかに興奮していたものだ。
自宅にあるアダルトビデオもロリータもの、という生粋のロリータ好きだった。
実際にセックスをしてみたいという願望もあった男ではあったが、小学生くらいの女の子と知り合いになるチャンスもなく、悶々とした日々を送っていた。
(これは…チャンスなんじゃないか?)
そう、絶好のチャンスだ。
こちら側は終点まで扉が開かない。
目の前の少女は、触れようと思えば届く距離に存在する。
ならば、やることは一つ。
男は意を決した。
はっきり言って、痴漢なんてしたことがない。
今まで真面目な社会人だったのだ。
これを機に犯罪者になる。
そういった考えは頭のどこかにあったが、それでも少女に触れたいという本能が理性に打ち勝った。
そっと、手の甲を少女の尻に当ててみる。
反応は、ない。
もう一度、今度は擦り付けるように少しだけ強く当ててみる。
今度はちらりとこちらを振り返りはしたが、顔を赤くして俯いてしまった。
(しめた…!)
男は内心ガッツポーズをとる。
以前、インターネットのサイトで痴漢のやりかたを読んでいて正解だった。
間違いなく、この子は抵抗しない。
車内という密閉された空間の中、自分が助かるよりも助かった後の周囲から見られる目のほうを気にしてしまうタイプだ。
そう確信した男はより大胆に、今度は掌で尻をスカートの上から撫で回した。
男は、今までに感じたことのない興奮に任せて尻を撫でるように、時折掴むように少女の尻を堪能した。
(うん…。柔らかい……)
二次性徴を迎えたばかりの、脂肪の付き始めた微妙な柔らかさは、掌に心地よかった。
少女は抵抗して身じろぎするが、男にしてみれば尻を触られて感じているようにしか見えなかった。
顔をちらりと見ると目線があった。一瞬声を出されるかと思ったが、少女は真っ赤な顔で「やめてください…」と一言呟いた。
しかし、男はやめてと言われてやめるような性格ではなかった。
もっと少女が欲しい。もっと触っていたい。
だってほら。時間はまだたっぷりと残されているのだ。
そう思うとやめられない。
男は黙ってスカートを捲り上げる。
「や………」
少女が微かに声を出して抵抗する。だが、その抵抗と急カーブによってバランスが崩れてしまったことが重なり、少女は男と向き合って接触する形になってしまった。
「……!」
少女が息を呑むのを感じながら、男はスカートの中に手を滑り込ませる。
男の手の進入を拒むように、少女は両足を閉じるが、そういったことが皮肉にも男を更に興奮させた。
少女が穿いていたストッキングだ。足に挟まれてしまった手ではあったが、すべりの良いそこは男の手を内股から、皮肉にも股間部分へと導いてしまった。
「も…もう……やめ……」
少女が泣きそうな声を上げる。これから何をされるのか分かっているのだろう。
だが男にとって少女が嫌がれば嫌がるほどこれから実行する事柄を強く決意させていく。
「あ……」
掌を這わせ、股間部分を刺激する。
既に性という快楽の得方は知っているようで、刺激するたびに「あ……あ…」と少女は弱々しく喘ぐ。
「気持ちいいのか…?」
男は危険かとも思ったが、少女の耳元に顔を寄せて尋ねた。
「………」
少女は答えない。だが、それは裏返してみれば本当のことを答えることが恥ずかしいから。
故に、少女は快楽を感じていることになる。
男はその少女のリアクションに満足げに微笑むと、刺激を少し強くする。
「や……ん………は…」
身体をくねらせ、少女は抵抗する。だが、悲しいかな。男の力に抗うことも出来ず、抱き寄せられ、身動き一つ取れなくなってしまう。
「あ…くぅ………」
男は掌全体で股間部分を包み込むようにすると、親指でクリトリスの辺りを刺激し始める。
ストッキングとパンティに阻まれて肉感こそあまり直に伝わってこないものの、そこが熱く、息づいていることを男は掌で感じていた。
「あ…ん……はぁ…あ……、や、そこ…は! はぅん、ん…あぅん!」
喘ぎ声から的確にクリトリスを指先で探し当てると、男は指を激しくこすりつける。
「や…あ! 駄目! あ…ああん!」
小声で抑えているけれど、少女の声は少しずつ高くなっていく。絶頂が近いのだろう。男は幼い少女の性器に愛撫を加えながら少女を絶頂へと導きたくなった。
この手で、少女をイかせるのだ。
その決意が、男の行為をさらにエスカレートさせていく。
「あ…やぁん………。え、何……?」
突然やんだ愛撫に、少女は困惑の声を上げる。
恐らく、もうすぐで届きそうだった絶頂へと導いてくれなかった不満があるのだろう。
少女は男をじっと見据えた。
「安心しろ……。ちゃんとイかせてやるよ」
そう耳元で告げると、男は少女のパンティごと、ストッキングを膝近くまで下ろした。
密閉した電車内でまずいかとも思ったが、逆に周囲の人間が壁になってくれる。少女の背丈なら、発見は困難に近いと男は踏んだのだ。
「や…恥ずかしい………。やめて……」
頬を赤く染めて、少女は俯く。
「本当にやめて欲しいか?」
その男の声に一度ビクリと身体を震わせる少女。
今が駆け引きのときだと男は悟る。
一瞬のタイミングをものにしなくてはならない。
「こんなに気持ちのいい事をやめてほしいのか?」
今度はスカートの上から少女の陰部を刺激する。
「あ…」
「…もう一度聞こう。やめて欲しいか?」
スカートの上からクリトリスの辺りをツンツンと突きながら、男は質問を続ける。
「………………………て……」
「ん?」
「……から…………せて……」
「聞こえないな」
少女のクリトリスを一度強く刺激する。
「あん!」
「もう一度言ってみろ。やめて欲しいか?」
「…いや。お願いだから…イかせて……」
ついに言わせた。
男はその言葉に狂喜した。少女は自分を受け入れたのだ。
「よし…なら、俺の背に手は回せるか? 声を抑えるために俺に抱きつけ」
少女はしぶしぶという感じだったが、男の背に手を回していった。男はそれを確認すると一度少女の手に背中を回す。
こういう状況だが、こんな美少女との抱擁なんて絶対に日常生活にないことだ。たっぷりと堪能したかったが、時間が問題だった。
あまりのんびりしていると終点に到着してしまう。
そう思って、男は手を少女の陰部へと滑り込ませた。
「濡れて……いるな、随分。濡れやすいのか?」
少女のそこは湿っていた。いや、湿っていたとかそんなレベルではない。確かにそこには潤いとして愛液が存在した。それはこの程度の愛撫で確保できるほどの濡れではない。
少女の体質なのかと尋ねると、恥ずかしそうにコクリとうなずく。
「そうか…。よし、すぐにイかせてやるからな」
そう言いながら男は今度は人差し指を少女の膣内に挿入していく。
「あ…あ……あ…!」
温かく、柔らかい感触に人差し指は包まれていく。締め付けは十分に確保された愛液によって緩和され、優しく男の指を締め付けた。
「いくぞ……」
男にはこの時点で、少女の処女を奪うつもりはなかった。そのため、かなり浅いところで挿入を止めて、ゆっくりと抽送を開始した。
「あ…あ、あ、あ、んぅ! あん、や…ううん、あ、は、あ、や…気持ち……いい…」
男の腕の中で、少女は激しく身悶える。
ヌチャ、ヌチャと指先を通じて音が響き、男が無毛の淫裂に抽送を繰り返す。
その度に、少女はピクリ、ピクリと何度も反応を繰り返す。
(可愛い……)
身体はまだまだ子供なのだけれど、こんなにも感じるのだ。
男は、その快感を与えているのが自分だと思うと興奮に身体を震わせた。
「もっと…気持ちよくなれよ…」
「や…はう! は…激しい! く…ぅぅん、はぁ! あ、いい! うぅん! そこ! いいよぉ…」
クリトリスを刺激すると、少女は歓喜の声を上げる。あまりに快楽に没頭してしまっているためか、声を抑える理性が既にないようだ。
周囲に聞こえるほどではないが、それでも甘い声は確実に響き渡り、また淫汁の匂いも周囲に漂い始めている。
「あ…ああん! すごい……はん、気持ちいい。…うぅん! あ、は、や…もう駄目……。私、イっちゃう!」
少女が絶頂に達しようとしている。
その言葉を聞いた男は、抽送とクリトリスへの刺激を一気に強いものにしていく。
「あ…駄目! はぁぁぁん! や、は! あう! だ…そんなに早く……はぅぅ! く、駄目! あ、駄目! 私、私…駄目! イク! イク! イっちゃう! イク! イっちゃ………やあああああああああああああああ!!!」
少女が絶頂に達したとき、電車の扉が開く音がした。振り向けば、そこは新宿。いつの間にやら終点に到着していたのだ。男は、少女の手を振りほどくと人ごみに紛れ込むように逃げようとしたが、その手を少女が掴んだ。
「な……」
まずい。このままでは痴漢で取り押さえられる。男の背筋に冷たいものが走る。
「待って……」
少女が声をかけてくる。
「すごく…気持ちよかった……。おじさん、ありがとう」
上気した、赤く染まった頬でニッコリと少女が微笑みかけてくる。
一瞬男はあっけに取られてしまったが、どうやら目の前の少女は自分に敵意を抱いていないようだ。
痴漢されたにもかかわらず、その目は相手を憎しみ、呪うかのような色には染まっておらず、むしろ感謝していると言わんばかりに輝かせた瞳で真っ直ぐと男を見据えた。
「おじさん、私ね……」
耳を貸して、と言う様に少女が手招きをする。男は一刻も早く逃げ出したかったが、ここで少女の機嫌を損ねて捕まるわけにはいかない。
少女に耳を貸した。
「……また、してくれる?」
「え…?」
「私の制服、女子校だって分かるよね? …彼氏とかいないし、ずっとオナニーしかしたことなかったし……。おじさんにしてもらえて、すごく嬉しかったんだ。だから、ね? お願い」
せがむように少女がお願いをしてくる。
(しても…いいのか?)
これから先も。
毎朝のように少女の性器をいじり、快楽に埋没させていいというのか?
本人がいいと言うのだから問題はないのだろうけれど、それでいいのだろうか。
「おじさんだって、私の身体を触って気持ちいいんだよね? ならいいじゃない。これからもしようよ」
「確かに気持ちはいいけど…」
それでも渋る男に、少女は追い討ちをかけた。
「ならいいよね。あ、私の名前、水島ゆかりね。よろしく」
「…進藤健二だ」
健二は短く自己紹介をする。ゆかりは一度服装を整えると、健二の手をとって歩き出した。
「ど…どこへ行くんだ?」
よもや鉄道警察に引き渡す気だろうか? …いや、それなら先ほどの約束は一体なんだったのだ? 辻褄が合わない。
「続き、しようよ」
「続き…だって?」
「さっきので終わりなんて嫌よ。私、もっと感じたいし男の人を感じさせたいもん」
「……………」
健二は言葉を詰まらせる。
(ゆかり…痴女なのか?)
元々性的なことに興味の出てくる年頃だ。先ほどの発言から自慰行為の経験があることは確かなようだし、車内での秘め事の最中に、本来の彼女の性癖が解き放たれた可能性は否定できない。
「おじさん…? もっと私の身体…触りたくない?」
一瞬どうしたものかと健二は困惑したが、しかしこうして合意の上で性行為をするのなら、和姦になり犯罪ではなくなる。
それに。
無理やり女の子を快楽に没落させていくということが、健二には好みではなかった。
一緒に気持ちよくなろうと、相手が言ってくれるのならそれに越したことがない。
「…ゆかり、学校はいいのか?」
一瞬、ためらうようにゆかりは目を伏せたが、しかし次の瞬間には「大丈夫だよ」と言って微笑む。
「すぐに済ませれば。まだ時間はあるし」
そう言いながら時計を見せてくるゆかり。
確かに、すぐに済ませれば会社に間に合う時間だし、ゆかりもそれでいいと言うのだから、問題ない。
「ただし」
くるりと振り向きながらゆかりは言う。
「二つの条件があるの」
「条件……?」
金でもせびる気か…? …でも相手は小学生だ。金額はたかがしれているはずだ。
しかし、健二が予想していたものを裏切る言葉が彼女の口から発せられた。
「一つは…この関係を出来るだけ長く続けたいこと」
「…え?」
出来るだけ長く…?
(ってちょっと待て)
本当ならそれは男である自分が要求する事柄ではないか?
嫌がる女の子を無理やりに…というのがこのタイプの世界のセオリーではなかったか?
健二は困惑の色を隠せない。
「…それから、学校や私の親にはこの関係を内緒にして欲しいの。おじさんも、知られたら困るよね?」
…共犯ということか。…いやいや、ちょっと待て。確か弁護士の友人から聞いたことがある。
性行為は小学生以下の児童を相手とした場合、例え合意の上でも強姦罪が適用されるとか。
(…つまり主犯は自分で、ゆかりが共犯で…ってあれ?)
考えていたが段々分からなくなってきた。
「それでいいよね?」
「…わかった。それはいいがこちらからも条件だ」
「何?」
「おじさんはやめろ。俺はこれでもまだ20代だ」
「あは、やっぱり嫌だった? でもお兄さん、はちょっときついよ」
そう言われてしまっては健二にはぐうの音も出ない。
確かに、後半を20代と誤魔化したのは現在自分が27歳だからだ。小学生の女の子にしてみたら、十分におじさんの世代だろう。
年齢も倍以上離れているのだから。
だが、それでもおじさんと呼ばれるほど自分が老けていると健二は思っていなかった。
「じゃあ、健二さん。それでいいかな?」
「…ああ、それでいい」
正直健二は狐につままれている気分だった。
痴漢された少女が行為後も喜んで相手についてくるという美味しい話を聞いたことは今まで一度も聞いたことがなかった。
「じゃあ、健二さん。早いところしちゃおうよ」
そう言ってゆかりが健二の手を引っ張っていった先は、健二にとって驚かされるようなところだった。
「…ここでするのか?」
行き着いた先は、朝の新宿であることが疑わしく思うくらい静まり返り、人の通りがほとんどない駅の近くにあった公園だった。
「ここなら大きい声を出しても大丈夫だよね?」
なるほど、そういうことか。
ゆかりの喘ぎ声は先ほど聞いたが、かなり大きいものだった。
電車の中だからまだセーブはしていたのだろうけれど、それでも絶頂に達したときはかなりの声だった。
「ゆかり…いいのか、本当に…?」
「私は平気よ」
このままもう一度ゆかりに触れたら、本当に二人とも後戻りなどできなくなる。
その意味を込めて尋ねた健二の問いにあっさりとゆかりは答える。
ゆかりの瞳はしっかりとした決意を秘めており、健二は自分も覚悟を決めたほうがいい事を認識した。
「私は平気…。健二さん…お願い。私を感じて欲しいの…」
そう言って訴えてくる彼女の瞳は真剣という二文字がまさに似合う色に染まっていた。
どこか切羽詰っている印象を健二は受けたが、それも気のせいだと深く考えないことにしてゆかりを抱きしめて答えた。
「ゆかり…分かった。俺がお前を感じる。お前も俺で感じてくれ…」
「うん……」
二人は頷きあい、近くの繁みに入っていく。
その時、健二の目に入ったものがあった。
(…そういうことか)
この公園の周囲を人が通らないわけ。
「健二さん……?」
「ゆかり…。これがどういうものか知っているか?」
落ちていたそれを指差し、ゆかりに見せる。
「……知らない」
「今時コンドームを知らない女の子がいるとは思えない。知っていただろう?」
「…………」
無言。
だが、それが何よりの肯定だった。
「…ここはそういう場所だ。もしかしたら襲われるかもしれない」
場所を変えよう。
そういった健二に力なく、ゆかりはもたれかかってくる。
「…ゆかり?」
「ごめん…眩暈がして……」
確かに。
男の健二でも気分が悪くなるほど、周囲は精液の臭いが立ち込めていた。
「……私ね…」
ゆかりが身体を健二に預けながら続ける。
「健二さんになら…何をされてもいいなって気がするの……」
「それは…例えばこの場でセックスをしても、ということか?」
「…ううん。健二さん、今は私を抱くつもりはないでしょう」
ずばり心を見抜かれた。
その通り、健二はゆかりを抱くつもりなど毛頭なかった。
気分を悪くしている女性を抱くことなど、自分まで気分を悪くする。
本来は健二は紳士的な男なのだ。
「だから、安心していられるんだよ。…最初、痴漢されたときもちょっと怖かったけど…。それでも触り方とか、すごく私を気遣っていて、優しかったから最後までして欲しいと思ったんだよ…」
「ゆかり……」
そっとゆかりを抱きしめる。
小柄な少女を抱きしめるなど、初めての経験だ。
なぜか、心が温まった。
「…時間、無くなっちゃったね……。ごめんなさい…」
「ゆかりのせいじゃない。…これでいいんだ」
「…健二さん」
「ん?」
「また…会いたい……」
はにかみながらゆかりは訴えてくる。
「…いい?」
「……そうだな。空いている時間が一致したらいいよ」
その言葉に、ゆかりの表情は明るいものに切り替わる。
「良かったら携帯の番号とアドレス、交換して。そうしてくれると嬉しい…」
「別に俺はいいけど、昼間は仕事があるから連絡は夕方か夜にしてくれよ」
「うん、分かっている。私も学校があるから」
そう言って、二人は電話番号とメールアドレスを交換した。
「明日も…同じ電車に乗るよね?」
「ああ、そのつもりだけど」
本当は今日と同じ電車だと会社に早めに到着してしまうので
、もう少し遅い電車でいいかと思っていたが、ゆかりと会えるなら今日と同じ電車でいいかと思う。
ゆかりとは、痴漢なしでも話しているだけで結構楽しい。
「私…今日と同じ場所に、同じ時間の電車に乗るから……」
「わかった。それに合わせる」
「…ちゃんと触ってくれる?」
「…ゆかりがしたいならいいぞ」
良かった。
そうやって微笑んだゆかりの顔は、朝日と同じくらい眩しいと健二は思った。
だけれども、不思議な少女だ。
何故、彼女はこうも自分を求めるのだろうか。
「それじゃあ、健二さん。行こう。遅刻しちゃうよ」
「それはまずいよな」
そういわれて会議の存在を思い出す。
大丈夫。この時間ならまだ余裕で間に合う。
二人はどちらからともなく、手をつないで歩き始めた。
向かう先は、人の多い新宿駅。
そこに向かうまで、他愛のない世間話やちょっとエッチな話をしながら二人はかわした。
最後に、また明日会おうと約束をして…。
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